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……マジで嬉しかった。 ……イチカとの毎日が、楽しくて仕方なかった。
そしてこのまま、イチカの「特別」になれると信じて疑わなかった。
だから俺は、5年間イチカにもらい続けた「友チョコ」を今年で卒業する事に決めた。
来年から「彼チョコ」に格上げしてもらう為、ホワイトデーにイチカの好きなマシュマロを渡して、告白するつもりだったのだ。
……なのに。
今年のイチカのチョコレートは、俺の手元に来なかった。
俺は、イチカの「特別」じゃなかったという事だ。
しかも、悪い知らせは重ねてやってくる。
イチカの「特別」が俺の親友だったと気づいたのは、バレンタインから三日後の事だ。
二人で仲良く下校する姿を初めて目撃したその夜、俺は発熱した。
高熱が三日も続き、寝込んでしまったのだ。
俺が学校を休んだ時は、いつも隣のイチカが授業のノートを持って見舞いに来てくれる。
当然のように彼女を待っていたけれど……だけど、どれだけ待ってもイチカは来なかった。
かわりにノートを持って来てくれた、クラス委員の市村さんを玄関で出迎えた時、初めて自分が失恋した事に気がついた。
思わず市村さんの前でボロボロと涙を流してしまい、彼女を困らせてしまった事は忘れてしまいたい過去だ。
それからの俺は、何もかもがどうでも良くなってしまった。
イチカに好きになってもらわなければ、俺の努力に何の意味も無いからだ。
授業は上の空で成績が急降下し、部活はスタメン落ちしてからサボるようになった。
腹が減らないのでメシも食わなくなったし、その分活力もなくなった。
昼休みは弁当も開けず、こうして寒い屋上でひとりで過ごしている。
誰かとふざけ合うことすら億劫だったのだ。
すべてが負の方向へ進んで行ったが、その向きを変える気力なんて全く湧かなかった。
ため息の量だけが、日ごと増えていくばかりだ。
春を知らせるには冷たい風が、体だけでなく、俺の心まで冷やしていく。
3月14日の今日。……行き場を失ったマシュマロを片手に途方に暮れていた。
「……郁!」
どれぐらいぼぉーっとしていたのだろう……。
呼ばれた声にびっくりして、慌てて振り返った。
出入り口に立っていたのは、俺の親友でイチカの彼氏、三木杉真紀(ミキスギマキ)だった。
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