しょっぱいマシュマロ

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本日、二人目の会いたくない人物である。 ……今日は厄日かよ。 今までで一番深いため息をついて、マキを出迎えた。 例えば、イチカの好きな男が他の誰かだったら、間違いなく俺はイチカ奪還の為にあらゆる手を打っただろう。 それこそ血の滲むような努力だって厭わなかったはずだ。 だけど、相手がコイツなのだ。 親友の彼女を奪うなんて、俺にはできなかった。 かと言って、祝福する事もできない。 ホントにどうしていいのかわからず、気持ちが闇の中へと迷い込んでいた。 そのせいでこの一ヶ月、ずっとマキを避け続けてきたのだ。 いいヤツだって知っている。 イチカの彼氏として、申し分がないって言うのもわかっている。 だけど、どうしても、笑って「よかったな」の一言がいえないのだ。 俺に構わないで欲しかった。 今、マキに優しい声をかけられると、惨めさが増す。 自分が嫌なヤツになりそうで、それがすごく怖かった。 目線を合わせないまま、顔を逸らす。 慌ててマシュマロを上着のポケットにしまった。 隣にマキが腰掛けてくる。 「……風邪ひくよ」 俺の体を気遣う男に、無言を通した。 そんな俺の態度に、マキがため息をついて返す。 「俺さ……昨日、藤吉さんに話した」 マキが独り言のようにつぶやいた。  ……恋人同士の二人だ。 どうせ「スキだ」「私も」とか、そんな話だろう……。 ハッキリ言って、ノロケ話なんて聞きたくなかった。 思わず立ち上り、その場を立ち去ろうとする。 しかし、その腕を捕まれた。 「もう、一緒に帰らないって言ったんだ」 「……え? ……えええ!! な、なんでそんな事言うんだよ!!」 思わず怒鳴っていた。 昨日まで、二人で仲良く下校していたのだ。 急な展開に、ついていけなかった。 「け、けんかでもしたのか?」 「……違う」 俯いたまま、マキがぽつりと答える。 「……じゃあ、なんで」 「だって、郁が俺の事……避けるから……」 「……え? 俺? ……はあ? オマエ、ふざけんなよ! そんな事で……」 「そんな事ってなんだよ! お前こそ、ふざけんな!」 気づけば、互いの胸倉を掴みあっていた。 そのまま、まっすぐに睨みあう。 永遠に睨み合いが続きそうだったが、マキの方が先に視線を逸らして手を放した。 「俺たち……親友じゃなかったのかよ」 その台詞が胸に深く突き刺さる。
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