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「……あのさ。 俺、郁と藤吉さんは、ずっと付き合ってるんだと思ってた……。みんなには内緒にしてるだけだって……。だけど、藤吉さんに聞いたら、思い切り否定されるし……」
さらなるショックに、心臓が痛くなってくる。 あんまりだよ、イチカ……。
「だから、彼女に急にそれっぽい事言われて、俺、ちょっと舞い上がっちゃったんだ。……だって、藤吉さん、普通に可愛いんだもん」
そこは激しく同意する。……イチカは可愛い。
さすが俺の親友、見る目がある。
「けど、ごめん。 俺、藤吉さん無理だった」
「……え? 無理? って」
「……彼女さ、自分の理想を追い求め過ぎてるんだもん」
……言ってる意味がわからない。
「だってさ……俺の事、英国紳士だと思ってるんだぜ。 いや、もう、あれは聖人君子扱いだな」
「ぶっ!」
マキの泣き言に思わず吹き出した。
……コイツが聖人君子? え、どっちかって言うと……
「……わかってるよ。 どうせ、腹黒エロ男子だって言いたいんだろう? ……オイ、笑うな!」
……そう。こういうトコも、俺がマキを好きな理由だ。
変に優等生じゃないのが楽しい。
ウラオモテを知っているのも、親友の特権だった。
ひとしきり笑いあった後、その親友がぼやいた。
「マジでさぁ、手もにぎれないなんてありえないよ……。これじゃあ、キスとか絶対ムリじゃん」
「てっめぇぇぇ!!」
気がつけば、マキのワイシャツの襟元を締め上げていた。
真っ青になったマキが、俺の手を激しく叩いて我に返る。
慌てて手を離した。
「ゴホ、ゴホ、は、話をちゃんと聞け……。 手もにぎれないって……泣き言を言ってんだよ。それは、にぎってないって事だから……な。ゴホ」
息も絶え絶え、説明してくれる。
……あ、にぎってないのか。 ごめん。
「頼むからさぁ。 こんなトコで、突然バカを発揮するなよ……」
親友に初めてバカにされたけど、息の根を止めかけたので許す事にする。
「ヤバイ……そろそろ時間だ」
マキが腕時計を確認して、急に焦りだした。
俺も慌てて確認するが、昼休みはあと30分も残っている。
「最後に一個、聞いていい?」
曲がったネクタイを直しながら、マキが質問してきた。
「俺さ、思ったんだけど……『カオルちゃん』って呼ばれて郁が怒るのは、女子扱いされてるから……って、理由だけじゃないよね?」
心臓がドキリと跳ねた。
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