第1章

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           4  ……地獄絵図……  声も枯れ涙も枯れた。身を縛る縄は時間が経過するにつれ綻んでいく。縛られていることも苦痛だがこの縄が切れたとき自分は下に蠢くゾンビたちに食われてしまう、その事に比べれば緊縛の痛みなど如何ほどのものでもない。そうしたら私の魂は悪霊共と同じになってしまうのか…… おぞましいが、もうそんなことはどうだっていい。すでに二人が奴等に食われた。次は自分だ。奴らが数珠繋ぎになっている縄の中の<アタリ>が引かれれば自分は落ちる。その後どうなるか……もう想像する気にもなれない。神に祈る気も……  山本恵子の精神も体力も限界だった。上の檻に入れられている12人も同様だろう。  誰もが絶望の中にいた。  そして全身黒ずくめの黒服コートの男が飛び込んだときも、それが助けとは思わず新しい<死神>が来襲してきたものだと思うだけだった。  ユージは部屋に突入すると同時にカメラを自動小銃……ステアーAUGミリタリーで破壊し素早く室内の状況を確認…… 狂人鬼しかいないことを確認すると、バックの中からグリップのついた奇妙な円盤を取り出した。次の瞬間その円盤から二対の偃月刀が生え、あっという間に1.4mもある巨大な三日月形の一対の両手持ち白兵武器に変化した。ユージはステアーAUGから手を放し偃月刀を握る。ステアーAUGは伸縮ベルトにより一瞬にしてユージの背中に張り付く。そして両手で特殊偃月刀を握ると疾風の如く狂人鬼の中を駆け巡った。一巡で5人の狂人鬼が首や頭、心臓を貫かれ即死した。この時ようやく狂人鬼たちは、異質な襲撃者の存在を認識した。  だが、その反応はユージを相手にするにはあまりにも遅すぎた。卓越した武芸者と、ただ凶暴化した素手の人間では戦いにすらならない。  ユージは振り向きざまの一刀で二人を殺し、反す刀でさらに一人の頭を割るともう一度狂人鬼の群れの中に飛び込み、残った全員を撫で斬りにした。そしてすぐに屍の束から離れ、背負った大きなバックの中から1Lくらいの缶を取り出すと屍と広がる血に向かって透明な液体をかけ、そしてジッポライターを投げた。一瞬にして火は広がり屍と血が燃え上がった。液化ロケット燃料だから少量でも炎は強い。とはいえそれで屍は燃え続けない。火は大量に流れた血と、傷を焼くことでこれ以上流れ出るのを防ぐのが目的だ。
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