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こういう異常状況下では理解をしてもらうより、とにかく強引に命令だけのほうがいい……そのことはユージの古い過去の体験でよく知っている。
ふとユージは檻の中で見覚えのある、目立つ大男に気がついた。すぐに日本で活躍する黒人タレントのボブ=オブドルであることを思い出した。
ユージはボブを呼ぶと彼ははっきり動揺し、片言の日本語で「ムリ、ムリ、ワカラナイ」と言った。すぐにユージは英語に切り替え早口でボブ=オブドルかどうか確認し、彼に英語か日本語かどっちが得意か尋ねた。ボブは英語と答えた。彼は英連邦ナイジェリアの出身だ。ユージはバックから一丁のSMGを取り出し「君は護衛役だ。万が一の時はこれで皆を守れ」と強引に渡した。これにはボブも驚き抗議した。
「僕銃なんか知らない!」
「だが銃を見たことはあるだろ? 悲しい現実だが日本人は銃を見たこともない。拳銃はおろか狩りで使うライフルも見た事がない。ここにナイフがあり果物があったとするね。君は人間と猿、どっちにナイフを渡す?」
この理屈にボブが不承不承頷くとユージは笑みを浮かべ彼の肩を叩き信頼の仕草を示した。早口のネイティブ英語だから他のスタッフには分からなかっただろう。
次にユージは全員に尋ねた。
「糖尿病……しかもインスリン注射の経験がある人はいるか? もしくは親族が糖尿病でインスリン注射のことをよく知っている、そういう人は?」
14人しかいないから無理かと思ったがなんと一人いた。林という男で以前使用していたとのことだ。
「幸運だ」とユージは珍しく微笑むと林を呼びバックの中から数本の注射キットを取り出した。
「これはワクチンだ。あのゾンビにならないための薬だ。絶対じゃないが打たないよりマシだ」
「ワクチン……」
「インスリン注射と同じだ。使い捨ての注射針をセットして、この薬を30単位全員に打ってくれ。できるだけ早くだ、移動中でいい。とにかく全員に必ず打つこと、あまりはナカムラ捜査官に渡してくれ」
林はこんな責任ある立場など到底無理だと思ったがユージに睨まれれば拒否することもできなかった。ボブと同じく自分の立場がどんなものか考えている間にさっさと次の手順に移った。島と小木の元に行き、液晶モニターを手渡した。それはゲームから流用してきたこの紫ノ上島の電子地図でここから森に出るまでのルートも入力されていた。
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