第1章

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「ここから出てすぐの部屋に大森というゲーム参加者がいるから彼も連れて行け。ナカムラ捜査官と会ったら彼だけはナカムラ捜査官に託せ。後、大森氏がいる部屋のドアのところに大きなバックが二つある。重いがそれをナカムラ捜査官に間違いなく渡してくれ」  島と小木は顔を見合わせ、頷いた。結局誰も今の状況をきっちり把握できた者はいなかった。むろんそれがユージの狙いだ。ユージは全員に「早くここから脱出しナカムラ捜査官と合流しろ。それが生き残る唯一の方法だ」と言うと、部屋を出て行った。ほとんどの人間は最後まで何が起きたのか完全には理解できなかったが、それでもこの場からいち早く脱出しなければならない事だけは分かっていた。 「前門の<くまもんモン>、後門の虎、頭上の蝙蝠っ!」 「そして周辺うろつく<マッドドッグ>ね」  飛鳥の悪ふざけにサクラは応対しながらグロック19の最後の弾を這い上がってきた羆に向け放つとグロックを仕舞い愛用のFBIスペシャルを抜いた。サクラにとって最後の武器だ。飛鳥は鉄棒、宮村はMP5で地道に羆や虎が這い上がってこないよう防戦していた。だがそれも時間稼ぎにしかならない。 「計算外ね…… まいったなぁ……」  珍しくサクラは焦っていた。敵は予想以上に強靭で自分たちの武装はこれに対しあまりに非力で武器のチョイスも間違えた。しかしそれは結果論でサクラの責任ではない。サクラたちは対人用装備で威力偵察が目的だった。こんなモンスターがいるなど聞いていなかったし、仮に知っていても果たして倒しえるかどうかも疑問だ。 「いくらなんでもゲーム・バランスが悪すぎやな!」  飛鳥はバリアーを持っている分比較的焦っていない。元々の性格だが。 「元々五分のゲームなんか作ってないでしょ! ここの企画者たちは!」 飛鳥の独白に宮村が答えた。その意見にサクラも同意した。元々このゲームを見ている連中はある種虐殺を楽しむため巨額の参加費を払っている。  元々がムリゲーだった。サクラたちに失敗があったとすれば攻略のための人数が少なかった事だ。だがそれもプラス拓がいれば……ということくらいで拓以外がいてもそれは被害になるだけだ。 「せめて一頭でもなんとかできれば違うんだけど」  愚痴が出るほど、サクラは焦っていた。  これまで様々な方法を試してきた。
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