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ーー初恋だった。
当時、まだ五歳の幼女に過ぎない小さな小さな女の子が、それでも一人前に初めて人を好きになる意思を持った。
どこか人見知りで、コミュニケーションを取るのが苦手な修羅が、唯一、気がねなく会話する事が出来た、近所に住む同い年の男の子。
それが、当時の義輝だった。
子供時代の義輝は、今と同じ様に馬鹿だった。
それは今も昔も変わらない、義輝クオリティと言っても良いだろう。
しかし、馬鹿は馬鹿なりに、無い知恵を絞って修羅を楽しませようと必死だった。
その必死さが、なんとも不器用で滑稽で・・・でも、いとおしく思えた。
ーーそう。
いとおしく、思えた。
人間は、完璧なんかじゃない。
完璧に見せようとする人間もいるし、中には限りなくパーフェクトに近い人間だっている。
けれど、それだって真の意味で万能と言う訳ではないのだ。
だからと言うのも変かも知れないが、修羅はそこに人間らしさと言う物を感じた。
どんな物でも、スマートにきちんとやれれば良いわけではない。
否、なんでもきちんと出来るのなら、それはそれに越した事はないのかも知れないのだが、そうではない。
先に言った様に、人間は完璧じゃないのだ。失敗もすれば間違いもある。矛盾を引き起こす事だって間々あるだろう。
けれど、失敗しても間違いがあっても、必死で努力する姿は、存外、格好良く見えたりする。
正確に言うと、格好悪く、格好良く見えるのである。
修羅の中の義輝は、そんなーー格好悪く、格好良い男子だった。
馬鹿な上に打算的で、良く失敗もする不器用な人間だったけどーー反面、誰より親身になって自分に接してくれた。
それが凄く嬉しくて・・・言葉に出来ないくらい、心が熱くなって。
高校生となった今となれば、その熱い気持ちが何であったのか、即座に理解する事が出来たかも知れないが、当時五歳の修羅には、まだまだ理解に苦しむ、謎の感情だった。
そして。
その感情が何であったのかーーその答えが出せないまま、修羅は義輝と別れた。
涙で視界が見えなくなるくらい泣いた。
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