第1章

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いっそ、生きる世界が変わるような巡り合わせがあればいいのに──。 ふと、そう思うことがあった。 月島香苗(つきしまかなえ)は、定例の茶会の帰り道に空を見上げて溜め息をついた。空は今にも泣き出しそうで、彼女が着ている淡い桃色の色無地の着物もくすむようだった。 境遇に不満はない。旧華族の血を引く家に生まれ、父は病院を経営している。生まれのせいか幼い頃から茶道に華道、ピアノの習い事に通わされていた。 けれど将来は看護師になりたいと願い、今通っている学校を大学まで卒業したら専門学校に進んでもいいと言われている。学校は幼稚舎から大学まで一貫した私立だ。香苗は幼稚舎のときに入学して、言われるままそこで学んでいる。今は高校三年生で、あと四年も望む進路まで待たなければならないのが唯一もどかしいと不満を覚えることだった。
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