第1章

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透明な石は、普通のどこにでもある水晶ではないのだろう。赤い内包物が光を受けて、きらきらと輝く。それが不思議で見入っていると、黙っていた店主が声をかけてきた。 「そのブレスレットは世界に二つしかないものだよ。身に着けていると、もう一人と引き逢わせてくれる」 「……二つ……?」 香苗がおうむ返しに訊ねると、店主は笑みを浮かべて頷いた。 「そう、二つだけ。人生を変える出逢いをもたらしてくれる。あなたになら特別に安くするよ。あなたは出逢いを必要としているようだから」 これもまた特別珍しくもない売り口上だろう。胡散臭いと思いながらも、自分の心を見透かされたような気持ちもあった。普段の香苗ならば一笑に伏していたはずだ。
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