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なのに、ブレスレットを置いて立ち去ることができない。店主の顔を窺うと、中性的な年齢を図らせない面立ちで真っ直ぐに見つめられる。店主は香苗に何の疑いもなく──香苗がブレスレットを選びとることを疑いもせず確信しているようだった。
「……本当に出逢いがあるの?」
その場の雰囲気に呑まれてゆくのを感じながら問いかける。
「もちろん。ただの出逢いじゃないよ。今の生活を覆すようなね」
「……いくらまで安くしてくれるの?」
店主の思惑に導かれるようにして、香苗はブレスレットを左手首に着けてみた。緩くもなく、きつくもなく、香苗の手首になじんだ。赤い内包物が奥深く見える。
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