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7月23日 18時30分
開けてはならない箱。
それは間違った噂だ。
正確に言えば、中を見てはならない。
僕には確認しなければならないことがある。
僕はずぶ濡れになりながら山を登った。
一昨日のことだ、場所はよく覚えている。
生い茂った木々の中でも、より巨大な大木。
その前で立ち止まると、箱を埋めた辺りが、掘り起こされたような後があることに気付いた。
素手で根本を掘り起こすものの、箱が出てくる気配がない。
それもそのはずだ。
誰かが掘り起こし、箱を持ち去ったのだから。
その人物は分かっている。
僕も良く知る…
その時、背後で草を掻き分けて進む足音が聞こえた。
その音は徐々に大きくなり、僕の真後ろに立ち止まると、荒い呼吸をしているのを感じた。
恐る恐る振り返ると、そこには民族衣装を身にまとい、右手に長い槍を携え、肌が焼け落ちたように、ボロボロの顔をした部族の戦士が立ちはだかっていた。
「あ…あ…」
僕は恐怖から、声にならない声を上げた。
その戦士は構えた槍を後に引くと、一直線に僕の心臓目掛けて突き刺した。
突き刺されたものの、不思議と血が溢れてくるようなことはない。
ただ、僕の心臓が鼓動を停止させたことに間違いはなかった。
戦士が槍を引き抜くと、僕はそのまま地面に倒れ込んだ。
薄れていく意識の中、恵と遊んだ幼少の記憶が脳裏をよぎっていた。
7月24日 13時
恵は両手で大きな箱を持ち、意気揚々とした表情で両親が宿泊している高級そうな旅館にやって来た。
女将に案内されながら部屋を開けると、年老いた夫婦は、笑顔で恵を招き入れた。
「まったく、寂しがりなのは変わらんな」
恵の父にあたる老人は、豪快に笑いながら言った。
「お父さん、お母さん、結婚記念日おめでとう!これ、私からのプレゼントだよ」
そう言うと恵は、両手に抱えていた箱をテーブルの上に置いた。
「まあ、ありがとう恵」
母は、手を叩いて喜んだ。
「それじゃあ、私は帰るから。二人で中を見ておいてね」
恵は部屋を後にしようとすると、母は当然のように呼び止めた。
「泊まっていかないの?」
「あ、近くのホテルをとってあるから」
「ホテルって、この辺りは高いぞ。お金は持ってるのか?」
「うん。もう少ししたら、いっぱいお金が入ってくるの」
恵は満面の笑みを浮かべて、その場を去って行った。
完
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