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7月22日 12時
恵はボストンバッグに洋服を詰め、せっせと荷造りをしていた。
「おい、どうした?どこか行くのか?」
僕が声をかけると、恵は覇気の無い声で返事をした。
「…うん。お母さん達のとこ。やっぱり不安だから…お母さん達と一緒にいたいの」
「……そっか。旅行先分かるのか?」
僕は少し残念な思いから、眉をひそめて答えた。
寂しい幼少時代を共に過ごした兄より、一切面倒を見てくれなかった両親を選ぶなんて。
「うん。昨日のうちに連絡しといたから」
「そっか。じゃあ駅まで送っていくよ」
「大丈夫だよ。心配しないで」
恵は支度を終えると「じゃあね」と笑顔で手を振りながら去って行った。
僕は部屋の布団に寝転び、悔しい思いから、目に薄らと涙を浮かべた。
共に寂しく遊んだ頃を思い出していると、目の奥から止まらない涙が溢れてくる。
「わたし、おにいちゃんのおよめさんになるんだ!」
「あはは、それは無理だよ。僕達は兄妹なんだから」
「えー!じゃあ、おにいちゃんにずーーっとめんどうみてもらう!」
「ああ、任せておいて。僕に父さん達のお金が入れば、幸せに暮らせるから。」
「わーーい!やくそくだよ!」
「ああ!」
正直言うと、恵の呪いが解けているとは思っていない。
だからこそ、涙が……止まらないんだ。
兄として、何も出来なかったことに憤りを感じている。
幸せにするって約束したのに。
危機から助けてあげることも出来ないなんて。
歯痒い気持ちを噛み締めていると、心労のせいか、いつの間にか眠っていた。
―――――――――――――
ふと目を覚ますと、部屋の中は暗闇に包まれていた。
数時間程眠っていたのか。
部屋の電気を付けると、換気のため窓を開けた。
本日も猛暑日と呼んで何ら差し支えないが、わずかながら心地良い風が入り込んでくる。
テレビをつけると、夏の特集で、心霊物の特番がやっていた。
昔からお馴染みの怖い話や、ネットに纏わる幽霊話などが放送されている。
何気なしにテレビを眺めていると、急に勢いのある風が部屋の中に入り込み、カーテンを大きく膨らませた。
ガア、ガア、ガア、ガア
その先には、酷く見覚えのある物体が、漆黒の羽を広げ、尖ったクチバシを開いているのが見えた。
イチ、イチ、イチ、イチ
僕は何が起きたのか分からなかった。
7月22日 19時
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