オアフの箱

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7月23日 8時 開け放たれた窓から、小鳥のさえずりが聞こえてくる。 僕はあれからずっと座り込んでいた。 どうすることも出来ない自分の運命に、絶望していた。 尿意も起きない、食欲もない。 僕のわずかな希望といえば、妹の恵の無事だけだろう。 幸か不幸か、呪われたのは僕だった。 恵が幸せでいてくれれば、それでいい。 そう思えば少し元気も出てくる。 つけっぱなしのテレビから、綺麗な女性タレントが出演している情報番組が流れていた。 今日命を落とす人間がいようが、世界は何も変わらず回っている。 明日死ぬとしたら、何をしたい?よくある難解な質問だが、今なら即答出来る。 答えは何もしない、だ。 僕は気が付けばいつもと変わらない日常を送っている。 テレビを見て、読みかけの本を読んで、じっとその時を待っていた。 7月23日 18時 静寂の中に、雨音が響いていた。 いよいよ後一時間。 一時間後に僕は死ぬ。 おもむろにパソコンを立ちあげると、僕と同じ運命に見舞われたあの人物のサイトを開いた。 その人物が呪いをかけられた後、必死に足掻いた記録を眺めていると、最後の日記に、読者からのコメントが残されていることに気付いた。 そのコメントには、怨恨のようなものが感じ取れた。 【あなたが悪いのよ。あなたが彼を奪わなければ、こんなことにはならなかったのに】 男女関係のもつれか? よく分からないが、この人物は周りから恨まれる人生を送っていたようだ。 そういえば、もう一人の人間はどうなったのだろう? 確か…咲子と書いてあったな。 日記を過去に戻して見てみると、連絡が取れなくなったと書いてある。 僕は変な妄想をした。 例えば、このコメントを書いたのが咲子で、サイトの管理人に箱を送ったのも咲子。 わざと開けさせて、箱の呪いを利用して殺した、とか。 考えすぎかな。 更に文章を読み直してみると、僕達によく似た現象があったことに気付いた。 咲子は…箱の中身を見ていない。 恵も箱の中身は見ていないと言った。 ……………… 僕はその時、戦慄にも似た感覚を味わった。 なぜ箱の中身を見なかった? 僕に声をかけられたから? 違う。 わざと見なかったのだ。 わざと大きな音を立てて、僕を部屋へ誘い込み、意図的に中身を見せたのだ。 僕は家を飛び出すと、土砂降りの中、山へ駆けて行った。
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