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7月20日 16時
僕は仕事をしていない。
僕の家は金持ちで、親は資産家だ。
両親も高齢だし、亡くなれば長男の僕に莫大な資産が入ってくる。
そう思うと働く気なんて起きないんだ。
そんな両親は現在旅行中で、留守を頼まれた僕は、夕御飯の支度に取りかかっている。
料理を作るのは得意ではないが、腹を空かせている妹のために腕を振るう必要がある。
仕事ばかりしていて、全く面倒を見てくれなかった両親は好きではないが、共に寂しさを分かち合った妹は大事にしている。
「お兄ちゃん、何作るの?」
僕が玉ねぎをクシ型切りにしていると、背後から声をかけられた。
「うん、カレーでも作ろうかなって」
僕は振り返らずに返事をした。
「お兄ちゃん、カレー作れるの?」
「分からない。まあ適当に作るさ」
「うええ、何か心配」
「そんなこと言うなら、恵(めぐみ)が作ってくれよ」
僕は後ろを振り返り、包丁の柄を妹に渡すように向けた。
「私が作れるわけないでしょ」
「そんなことじゃ、嫁の貰い手もないぞ」
「余計なお世話です」
他愛もない会話をしていると、ふいに家のインターホンが鳴り響いた。
「恵、ちょっと出てくれ」
「はーい」
恵が玄関で宅急便の受け取りをしているのを耳にしながら、せっせと調理を進めていた。
「ねえ、お兄ちゃん。なんか変なの届いたよー」
恵は、玄関からリビングへ大きめの声を上げた。
「誰からー?」
「分かんない」
「分かんないって、書いてあるだろ」
「えー、どこに?」
「あー!もう!」
僕はラチがあかないことに苛立ちながら、調理の手を止めると、玄関の方へ向かった。
恵はすでに荷物を僕の部屋に運んでいて、それを見下ろすように立っている。
その荷物は真っ白な箱で、上面に送り状が貼ってあった。
宛先は僕の名前に、ここの住所が書いてある。
送り主は…。
「同上?」
僕はそれを見て思わず声を発した。
「同上ってどういう意味?」
恵は首を傾げた。
「宛先と同じ、つまり僕ってことだ」
「お兄ちゃんが送ったの?」
「そんなわけないだろ」
全く心当たりがなく、送り主も不明な白い箱に、薄気味悪さを感じていた。
気味の悪さに拍車をかけているのが、箱の全面に赤いマジックで書かれている「これ開けてみて?」という文字だ。
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