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その音が何を意味しているのかはすぐに分かった。
調理の手を止め部屋に駆け戻ると、恵がガムテープを破り捨て、底の部分だけ残し、箱を持ち上げていたのだ。
「おい、恵」
僕が声をかけると、恵はビクッと肩を跳ね上げ、慌てて箱を元に戻した。
「…えへへ、開けちゃった」
恵はペロッと舌を出した。
「恵、すぐに処分しよう。あんな物が入ってるなんて、イタズラにしては度が過ぎる」
一瞬ではあったが、箱の中の物を見ることが出来たんだ。
人間の…骨だ。
それも頭の部分、頭蓋骨と呼ばれる部分が底の上に乗っかていた。
「え?何が入ってたの?」
恵がキョトンして聞き返した。
「見えなかったのか?」
「だって、急に呼びかけるんだもん」
「…骨だよ、人間の。それも頭のところ」
それを聞くと恵は「うええ」と嗚咽にも似た声を漏らしながら後ずさりし、僕に問いかけてきた。
「ほ、本物なの?」
「分からない。いずれにしろ警察に届けた方がいいね」
僕は捨てられたガムテープで、箱と底を十字に繋ぎ止め直すと、恵に出かける旨を告げた。
「じゃあ、ちょっと行ってくるから」
ゆっくりと、慎重に箱を持ち上げたその時、動物の鳴き声のような音が、僕達の耳に入った。
ガア、ガア、ガア、ガア、ガア
その音はノイズのようにしゃがれていて、酷く耳に障った。
音が聞こえた方に目をやると、開け放たれた窓から風が入り込み、カーテンが大きく膨らんでいた。
そのカーテンの隙間から、真っ黒い体毛で覆われた、中型犬程の体格を持つ大きな鳥が、ベランダの柵にとまり、尖ったクチバシを開けて鳴いているのが見えた。
目を大きく見開き、僕達を真っ直ぐ見つめているようだが、眼球が左右に離れ、どこを見ているのかは定かではない。
しばらく同じ鳴き方を続けていたが、次第に一つの言葉を連呼した。
サン、サン、サン、サン
………喋った?
ひとしきり言葉を発した後、ゲハハハハと肩を震わせて下品に笑いだした。
その瞬間、背筋が凍るような戦慄を感じた。
喋るどころか、急に笑い出したその鳥に恐怖を感じ、ガクガクと足を震わせていると、満足したかのように飛び去って行った。
「お…お兄ちゃん…」
鳥が飛び去ったと同時に、僕の唯一の兄妹であり、大切な妹の恵は、顔を青ざめながら僕を呼ぶと、膝から崩れ落ちるように
――――――倒れた。
7月20日 19時
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