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13 追憶-2 #2
教えてやりたい本音と絶対知られたくない本音。
結局どちらも言葉にはできずに、私は有る意味一番切実な『お願い』を、口にした。
「メガネちゃんって呼ぶの、やめてください。私には高橋梓ってちゃんとした名前があるんですから」
「う~ん。梓ちゃん……ってかんじじゃないな。あずっち、あずりん……」
指折り数えて私の呼び方を物色し始めた先輩の放った言葉に、思わずギョッとする。
誰が『あずりん』だ!
そんな呼び方をされた日には、私はきっと恥ずかしさで悶え死ぬっ。
「やっぱり、シンプルに『梓』かな? よし、梓にしよう。うん、これからは、梓って呼ぶよ」
すっと耳元に落ちてくる心地よいテノール。
どこか優しい響きを持った声音で名を呼ばれて、ただでさえ早い鼓動に拍車がかかる。
内心、動揺しまくりの私に向けられる先輩の瞳はどこまでも愉快そうで、なんだか、私の心の内なんか全部見通されているような気がする。
それにしても。
いきなり呼び捨ては心臓に悪いです……。
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