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美加ちゃんに心からのお礼を言い、自前のシンプルなグレーのパンツ・スーツに身を包んだ私は、課長の待つ一階のエントランスに急いだ。
我知らず、心がせいだ。
このメイクを見たら、なんて言うだろう?
気が付かないかな?
気付いても、何も言わないかな?
そんな胸の高鳴りを必死に抑えながら、1階に着いたエレベータを降りて、課長の姿を探してエントランスに視線を巡らせた。
でも、どこにもいない。
もう1度、今度は少し丹念に視線を巡らせる。
退社する人波のピークを過ぎた1階の受付フロアには人がまばらで、人を探すのはたやすい。でもやはり課長の姿は見つからない。
受付の女の子は定時で上がってしまうから、聞くこともできないし。
あせって腕時計に視線を走らせると、5時47分。約束の15分よりも、2分の遅刻。
まさか、1人で先に行ってしまったとか、ないよね?
そんな不安が募っていく。
不意に、9年前、
東悟が突然姿を消してしまった時のことが脳裏をよぎり、芽生えた不安は急速に膨らんでいく。
どこに行ったのか、
どうして姿を消したのか、
考えて考えて、考え疲れるくらいにまで考えて、
それでも、とうとう答えは見つからなかった、あの苦い記憶。
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