637人が本棚に入れています
本棚に追加
「タクシーも来たようだし、行くとするか」
「はい。パーティには慣れていませんので、宜しくお願いします」
「了解」
静かな声と共に、ペコリと下げた頭に振ってきたフワリとした温かい手のひらの感触に、一瞬にして全身が固まった。
でも、その感触はほんの一瞬のことで、驚いて顔を上げて見つめても課長の表情には別段変化はなく、
気、気のせい?
ジッと穴が開くほど見つめても、ニコニコスマイルは崩れることは無く、
玄関先で上がったタクシーのクラクションの音に、ハッと現実に引き戻された。
そうよね、
こんな会社の玄関先で、頭ナデナデなんて暴挙、課長がするはずがないよね。
「さあ、行こうか」
「は、はいっ」
会社の外は、まだ夕闇前。
走り出した黄昏色の街には、ポツリポツリと明かりが灯っていく。
いつもなら気にもしないその風景が、どこか輝いて見えるのは、
やっぱり気のせいかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!