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『遅刻はできない』
その一言に、背中を押されてしまった。
そして再び、パーティ会場に向かうタクシーの中。
「靴やアクセサリーも揃えたかったが、さすがに時間切れだな」
足元に視線を落として言う課長に、私はフルフルと頭を振った。
「これで、充分ですよ。履きなれない靴は、足を痛めますから」
「それもそうだな」
流れる、穏やかな空気が心地良い。
そう、靴は自前の黒いパンプスで充分。
そんなに何もかも身の丈に合わないモノばかり身に着けていたら、自分が自分でなくなりそうで怖いから。
私は、このままでいい――。
今から自分を待っているのは、初めて出席する大手ゼネコン主催の関係業者交流パーティ。
これはれっきとした仕事だ。
それは分かっているけど、どうしても、心の奥底にさざ波が起こるのを止められない。
ギュッと目をつむり再び目を開けた時、ゆっくりと流れゆくタクシーの窓の外で、太陽の最後の光が、闇に落ちたビルの陰に微かな光を投げかけていた。
黄昏は、もうじき闇に飲まれる。
そして、
波乱含みの、パーティの幕は上がっていく。
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