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「おはよう、2人とも。土曜は、娘の遊び相手をさせてしまって悪かったね」
そう言って、課長は、土曜の出会いが何でもなかったかのように、いつものニコニコスマイルを浮かべなさっている。
そう、その程度のこと。
私にとっては一大事でも、課長にとっては、自分が既婚者だということを部下に知られた所で、何の痛痒も感じないだろう。
「おはようございます、課長! いいんですよー。私も楽しかったですもん。もっとゆっくりお話ししたかったです」
私の隣の席から、美加ちゃんの元気な声が飛んでくる。
美加ちゃんは私よりもずっと大人だ。
ちゃんと、ビジネスとプライベートの線引きが出来ている。
それに比べて私と来たら、仕事の準備をするふりをして、会話に加わることができない。
私はいったい今、どんな顔をしているんだろう?
ちゃんと、笑っているんだろうか。
「高橋さん。今日のスケジュールなんだが――」
「はい」
早く。
一刻も早くこのまま、何事もなく時が過ぎ去ればいい。
そうすれば、きっと、この心の疼きも薄れていくはず。
そう、願っていたのに。
運命の神様というのは、私がとことん嫌いらしかった――。
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