14 告白-1 #2

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「あの……、谷田部課長?」 「うん?」 おずおずと、 隣の課長席の図面台で『私の担当工事の柱詳細図』を、華麗なるシャーペンさばきで書きこんでいらっしゃる課長様に声をかけると、シャーペンの動きは止まらないまま、声だけで応答があった。 「課長まで私に付き合って、毎日残業することは無いと思いますけど……」 「どうぜ帰っても1人だし、やることもないからね。気にしない気にしない」 柔らかい声には、笑いの微粒子が含まれている。 課長の自宅は東京都内にあって、関東の一県にある我が社に勤務するために、単身赴任をしてきているのだとか。 まあ、高速道路を使えば1時間半、2時間もあれば余裕で帰れる距離ではあるけど、なぜかアパートで単身赴任。 それを課長から聞き出した美加ちゃんは、喜び勇んですぐさま教えに来てくれたけど、私としては、どう反応して良いのか分からなかった。 少なくとも、『嬉しい!』と、能天気に喜ぶことが出来なかったのは確かだ。 「経験値が低くても、猫の手くらいには役に立つだろう?」 「そ、それはそうですけど、なんだか申し訳なくて……」 気が散るんです、 散りまくるんです。 帰って欲しいんです、帰って! そんな念波を飛ばしてみるけど、エスパーならぬ常人である私の気持ちが課長に届くわけもなく、 「仕事に遠慮はいらない。使えるものは、どんどん使ってくれて良いから」 なんて、図面台の脇からニコニコスマイルを向けられて、鼓動が早まってしまう私は、ミジンコ並に掬いようがない。
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