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それに、ひとつついた嘘は、又次の嘘を呼び、雪だるま式に増えていくのが常道。
そんな罠に、足を突っ込みたくはないけれど。
「なんだぁ、そうかぁ。俺は、てっきり……」
飯島さんは、少し照れたようにポリポリと鼻の頭をかきながら、ぼそぼそと言葉を続ける。
「いや実は、ホテルのフロントでお2人を見かけた瞬間、俺、『ああ、トンビに油揚げをさらわれた!』って、思ったんですよ。ああしまった、遅かったかって悔しくて」
「トンビに油……?」
何に、何がさらわれて、悔しいって?
意味が分からずキョトンとしていると、飯島さんは初めて見る、苦笑めいた表情を浮かべた。
「だって、高橋さんと谷田部さん、2人の間に流れる雰囲気が、こう何だかやけにいい感じで……。だから、てっきり2人は付き合っているのかとそう思って慌ててしまって……。いやぁ、なんだ、そうかー!」
1人で何やら納得してウンウン嬉しそうに頷いている飯島さんの顔を、ある予感を覚えて、私は呆然と見つめた。
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