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「ええ、まあ、『初めて会った時から』あたりからは、聞こえていましたが……」
語尾を濁す課長に、飯島さんはあくまで食い下がる。
「谷田部さんは、どう思います? 俺と高橋さんが付き合うことを、反対されますか?」
見事なまでに、直球で質問をぶつけてくる飯島さんに向けられる課長の眼差しはなぜか穏やかで、私の心の中にモヤモヤとしたものを増殖させていく。
「私は、部下のプライベートなことまでは関知しませんので、それはご当人どうしの問題でしょう。別段、私がどうこう言う筋合いのものではありませんよ」
感情を排したような静かなトーンのその言葉が、
一瞬にして、私の全身に、冷水を浴びせかけた。
課長の言っていることは、正論だ。
ごく当たり前の一般論。
でも、課長の口から発せられたということだけで、その破壊力たるや東京タワーをなぎ倒すゴジラ並だった。
あまりのショックに、言葉が出ない。
「上司である谷田部さんもこう言ってますし、高橋さん、どうでしょう、1度試しにデートをしてみるっていうのは?」
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