16 郷愁

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ほんの少し手を伸ばせばたやすく届くほどに、すぐ隣に座る人。 その体温を痛いくらいに感じながら、 タクシーの後部座席の窓から、ゆっくりと流れていく夜の街並みを、ただぼんやりと見つめていた。 今日はこのまま直帰だ。 車は会社に預けて直接タクシーでアパートに帰り、 月曜日は、バスで通勤する段取りになっている。 深夜の道路は悲しくなるほど空いていて、ほどなく、見慣れたご近所の風景が見え始めた。 ことここに及んでもまだ、課長と一緒に居たいと思う気持ちが、私の中には確かに存在している。 今更ながらそのことに気付かされ、苦い笑いが口の端を上げた。 本当、救いようがない――。 ミジンコどころか、バクテリア並に掬いようがない。 ふと巡らせた視界の隅。 数十メートルほど先、 道路の左側に、闇夜に煌々とオレンジに輝くお馴染みのコンビニの看板が見えて来て、私は運転手さんにその前で止めてくれるように頼んだ。 何だか、無性に母の作った『サバの味噌煮』で、白いご飯が食べたくなってしまったのだ。
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