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16 郷愁 #2
「なんで、はっきり断らなかったんだろう……」
先延ばしにしたところで、出る答えは決まっているというのに。
今更ながら、自分の優柔不断さが、恨めしい。
大きなため息を、ひとつ吐き出し、
まだ夢の余波で濡れている頬を、手の甲でごしごしと拭って。重い頭と気怠い体に鞭打ってなんとか立ち上がり、テーブルの上を片付けにかかったその時。
プルルル、プルルル――と、
携帯電話の着信音が上がった。
反射的に視線を走らせたた壁掛け時計の針は、午前9時半。
今日は土曜日で、会社は休み。
美加ちゃん、だろうか?
昨夜のパーティの状況が聞きたくて、かけてきたのかもしれない。
でも、『もしかしたら課長からかも』と言う可能性も拭いきれなず、ドキドキと鼓動が早まる。
床に放り出されている黒いハンドバックから携帯電話を取り出し、恐る恐る、着信窓に視線を落とした。
「あれ……?」
着信窓には、見慣れぬ携帯電話の番号が表示されていた。
メモリーしてある名前ではなく、電話番号が表示されるのは、相手が初めてこの電話にかけてきた人だということ。
『誰だろう?』と、首をひねりながら、とにかく電話に出ることにする。
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