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ま、まずは、お礼の品を渡す!
心で自分に叱咤激励。
「わざわざすみませんでした。これつまらないものですが、お茶うけにでもどうぞ!」
用意していた、おせんべいの詰め合わせ入りの紙袋を、ズイっと捧げ渡す。
「いやぁ、返って気を遣わせてすみません。じゃ、遠慮なく頂きます」
ありがたいことに、飯島さんは言葉通りに遠慮なく受け取ってくれた。
よしっ。まずは第1段階クリア!
つ、次が問題だ。
言え、言うんだ私っ!
大きく息を吸い込み、息を止めて。
「飯島さん、じ、実はっ――」
「まあ、話は後からゆっくり。まずは出かけましょう」
クルリと踵を返すと、飯島さんは助手席側のドアを開けて、『さあ、どうぞ』とばかりに、私に乗るように手招きした。
「え? あ、あのっ!」
優柔不断の重い鎧を必死で脱ぎ捨てて、意を決して口を開いたのに。
『お気持ちは、とても嬉しいんですけど、実は好きな人がいるんです。だから、お付き合いはできません』
何度も脳内シミュレーションした肝心のその言葉は、寸前の所で飯島さんの行動で遮られてしまった。
それどころか、このままじゃデートコースまっしぐら。
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