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「でも、それでは……」
たぶん、『私たちの迷惑になるから』と、続くはずの言葉を飲み込み、課長は短く息を吐いて、私たちに視線を向けた。
部下としては、ここは上司サービスで『お子さんはお預かりしますから、どうぞお2人で』と、言うべきだろう。
そう思うけど、あまりの事の成り行きに脳細胞が付いて行かず、巻き添えを食った言語中枢は上手く働かず、
笑顔は最早引きつったまま能面のように固り、活動停止中。
ああ、私って、使えない……。
「別にいいですよ。俺、子供好きですから。梓さんもいることだし、喜んでお預かりしますよ」
美女と将来美女になりそうな現天使に熱い視線を向けられて、明らかに困っている様子の課長に、助け舟を出したのは、私ではなく飯島さんだった。
『申し訳ない。すぐに戻るので、お願いします。何かあれば携帯に連絡を』と言い置き頭を下げて、課長は真理ちゃんを私たちに預けると、美女を伴い遊園地の散策に出かけた。
それにしても。
「真理ちゃんのママ、とても美人さんねぇ。高橋さん、びっくりしたよ」
まめまめしく、飯島さんがオーダーを取って買ってきてくれたハンバーガーと、ポテト、オレンジジュースのメニューを、美味しそうに口に運ぶ真理ちゃんに、さりげなく話を振ってみる。
飯島さんは、喫煙タイムとかで、少し離れた灰皿の置かれた喫煙コーナーに行っていて、ここにはいない。
真理ちゃんはポテトをハムハムと飲み込みながら、不思議そうに小首を傾げた。
「玲子さんは、真理のママじゃないよ。パパの婚約者だもん」
え……?
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