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ママじゃなく、婚約……者?
各々の単語の意味は分かるけど、それが脳内で意味のある文章にならない。簡単に言うと、意味不明。
「真理のママは、真理を生んだ時に死んじゃったから、真理にはパパしかいないの」
ほんの、5、6歳の少女が口にするには重すぎるその事実を聞き、なんて言っていいのか分からない。
「そう……なんだ」
「うん。でね、玲子さんはパパの『ノチゾイ』さんになるんだって」
後添いさん。
奥さんが亡くなっていたという事実も、現在進行形で婚約者がいるという事実も、私には、関係のないこと。
そんなこと、分かっている。
でも……。
モヤモヤと胸の奥にわだかまるこの感情を、何と呼べばいいのだろう。
自惚れていたんだ、私。
私にとって課長の存在が特別なように、奥さんがいても子供がいてもそれでも、心のどこかでは特別に思ってくれているんじゃないかって、そう自惚れていた。
その証拠に、なぜ、本当のことを教えてくれなかったのかと、心のどこかで、課長を責めるような気持ちがある。
自分は、課長にとってはただの部下。それ以上でもそれ以下でもない。
それを嫌と言うほど思い知らされた。
だから、こんなにショックなんだ。
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