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彼女がまた叱られている。
庭に植えられた蜜柑の木の甘酸っぱい風に吹かれて、僕は今日も母から貰った色鉛筆を握り締めていた。乾燥した小さな手のひらの中で、ころころと黒い鉛筆を転がしては握り締めて、彼女が先生の大きな拳で何度か打たれ終わるのを待った。
手のひらが汗ばみ、色鉛筆がスムーズに転がらなくなった頃、彼女は黒くて丸っこい瞳の淵から、ビー玉みたいな大粒の涙を流して、僕のところへ帰ってきた。僕は腫れ上がり充血した真っ赤な彼女の頬を見て思わず歯を食い縛った。まるで自分が痛みを負っているかのような嫌な感覚が、素早く全身を駆け巡っていく。
「また汚したんだって?先生の作品」
僕が鉛筆を机の上の木箱に戻しながらそう尋ねると、彼女はぶるんぶるんと激しく首を横に振った。
「ただ触っただけなのに、先生は私をぶったの」
悪くないと言わんばかりに、腫れた頬を更に膨らませて、不機嫌に眉を寄せる彼女がまた愛らしくて、思わず微笑んでしまう。
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