第1章

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「こんなに汚れた手で触るからだよ」 僕は彼女に見えるように、僕自身の泥だらけになった手のひらを広げて見せた。彼女は僕と同じように真っ黒く汚れた自分の手のひらを背中に回して隠してから、もう一度大きく首を横に振った。 「先生は私のこと大っ嫌いなんだから、だから怒鳴ってぶつの」 「それは違うよ」 木箱の中で眠るように体を寄せ合う色鉛筆をじっと眺めながら、僕は彼女に言った。 「先生は、僕らを食べさせていくために絵画を描くんだ。色んな所へ旅をして、色々な景色を眺めながら、描いて、描いて、僕らの命をこの世界に繋いでくれるんだ」 「でもぶたれた頬っぺたはずっと痛いもん、ご飯だって食べられないくらい痛いもんっ」 僕が先生を庇ったことが気に入らなかったようで、彼女は僕が大切にしている色鉛筆の木箱を鷲掴み、箱ごと中身を床に叩き付けた。 カラカラと色鉛筆が床に広がっていく。
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