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「ええ。でも医師が体を楽にさせるために着物は暫く止めてくださいと」 「まあ。奥様に報告は?」 「……後でします」  青ざめて震える美麗を橘は心配していたが、仕事が山のようにあるのですぐに縁側を滑るようにかけて行く。美麗はお腹を押さえながら、途方に暮れていた。  少しだけ、少しだけ、外の世界が見たかった。  少しだけ、少しだけ、悪いことをしてみたかった。  あの夜だけは、一夜だけは、美麗は確かに恋をしていた。古い言い回しをさせてもらえば、恋に酔っていたのかもしれない。恋に恋して、周りなんて見ていなかった。それが原因だ。
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