英国紳士は賭け事がお好き!

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 嫌な予感はひしひしと感じていた。まだ二十歳になったばかりの、結婚適齢期満たない身だと油断していた。  なかなか恋人の陰すら見えない、鹿取 美麗(かとり みれい)。その名前の美しさから、お見合いだけはちらほら舞い込むのだが、地味でしとやかで旦那を立てる女性を望む方々からはことごとくお断りされていた。   美麗は雑で落ちつきがなく、未だに少女のような仇けない表情で笑う。そのせいで、師範代の母親からは、色気や艶が感じられないと、なかなか名取にさえ昇格して貰えず、最近は妹弟子の荷物を持たされる屈辱さえ味わされた。  元々、舞踊には興味も無く、茶道も習字もお琴も足が痺れるだけで苦痛でしかなかった。 「もうお暇を頂きたく存じます」  なるべく言葉を選んで、慎重に慎重に言ったつもりだが、背筋を伸ばし、威圧的な風格のある母親にちらりと見られると、恐怖で言葉を失ってしまった。    今まで、逆らった事も無い、思春期の反抗期もない、けれど、自分自身のやりたいこと、目標も見出せず、此処まで来た。 「それで、全部放りだして、貴方、何をするつもり?」 「OLとか……?」  疑問形なのは、したいことは特にないが、普通の女性みたいな事をしてみたい。  だが母も顔はみるみる赤く、ヤカンのように沸騰すると、縁側の襖を閉めた。
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