2769人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ
第一章【王国】
赤いカーペットが敷かれた廊下を俺はゆっくりと歩いていた。
周りからの嫌悪感を露骨に表してくる視線や影口など、慣れれば空気のように気にならなくなる。
俺は朝の出来事を思い出しながら、ただひたすら長い廊下を歩いた。
・・・
コン、コン
小さなノックの音をきき、俺は兄上を豚小屋のようにきたない部屋へ向かい上げた。
綺麗な兄上にこんな所に来て頂くのは心苦しいが、俺の部屋はここしかないので仕方がない。
「レイ兄上、どうかされたんですか?」
「サシャ…お前を父上が呼んでおられるのだ」
表情を歪めた兄上は、開口一番にそういった。
国王が俺を呼ぶ時なんて『手術』の時しかあり得ない。
それを知っている兄上は、行かせたくなどないのだろう。
第一皇子という肩書きがある兄上だけども、国王と比べてしまえばその権力は余りに小さい。
『手術』をやめさせることなど出来はしないだろう。
「最近多いですね。…何かあったのですか?」
「ああ。…獣国と戦争をしていてね」
「何でまた」
獣国に勝てるはずがないのに。
「獣人の子供を…見世物小屋で嬲り殺したんだよ。何人もね。今まで何もされてこない事に調子をのったんだろう。獣人は人間を恐れてると…そう勘違いをしてしまったんだね」
「それで攻め込まれたわけですか。…状況は?」
何しろ自分で調べなければ何も入ってこないから。
『手術』が多いから何かあったんだろうとは思ってたけど、興味ないから調べなかったんだよな。
「負けたよ。…なのにサシャを使って金儲けをするだなんて!今はそんなことしてる場合ではないのにッ」
「レイ兄上…」
怒りに燃える兄上の瞳は綺麗だ。
いつもは思慮深さを感じさせる静かな青い瞳が、爛々と光っているのはとても幻想的な美しさを持つ。
「大丈夫ですよ。俺はもう慣れましたから」
「そういう問題ではない!…あんなの、慣れるはずがないだろう!?」
「レイ兄上、とにかく行きましょう」
国王を待たせるのは得策じゃない。
「サシャ…私がもっと力を持っていれば___」
「兄上。それはいっても仕方がありません」
遮って小さなドアを開ければ、ギギギ…と古びた音がした。
「行きましょう」
「ああ、すまないな…」
小さく謝る兄上の言葉を聞こえなかったふりをして、国王の元へとむかった。
最初のコメントを投稿しよう!