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彼と見つめ合うのは仕事中の楽しみの一つだが、
三十にもなって小学生の頃と同じ事をやっているのは
滑稽の極みとも思う。
彼は……カマキリだ。
正確には全長三メートルのカマキリ。
遺伝子操作で作り上げられた化け物。
世間ではキメラと呼ばれ、
生物兵器として実戦投入されたのは
十二年前だ。
一般に大量破壊兵器の中で
一番コストが掛からないのは
生物兵器である事は明白では
あったが、細菌、ウイルス、毒素を
使用するのはジュネーヴ議定書で
禁止されていたので、法の抜け道として
先進国が中心となって導入を進めた。
吉良が勤務する東風(とうふう)重工は
以前から遺伝子操作技術を使った
ペット再現サービス(死亡したペットに
そっくりな別個体)を提供していた事で
ノウハウは備えていたので、この産業が
金になると踏んだ社長の英断で、
他社より一歩先んじて今や業界トップの
売り上げを誇る。
主な輸出先はアメリカだが、
安くて、早くて、簡単が売りの
キメラ産業に魅力を感じる
他先進国からの注文で
三ヶ月前から大幅な増産を
行っている。
配備される現場は
紛争地帯が六割。
他に石油パイプラインの近辺。
新たに武力介入した資源が豊富な
アフリカの国々などだが、
いずれの場合もテロリスト、または
テロに関係のある武装勢力と
相対する事が多いと営業に行っている
同期にランチの時に聞いた事がある。
彼いわく、ロールプレーイングゲームの中での
モンスターとの戦闘みたい、だとか。
そんなものかと笑ってやったのを覚えているが、
それが現実ならテロリストや独裁者から
すれば悪夢に違いない。
もっとも聖戦を謳う者たちに
とっては格好の宣伝材料になるはずだが。
化け物を討伐し、武勲を立てる。
神話の時代の再現。
戦士にとっては誉れであろうな、と
吉良は平凡な感想を浮かべ、
呼び出し音が鳴った事に気付いた。
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