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「ふぅむ」
妄想を邪魔されて、若干テンションが
下がる思いをしながら、吉良は
デスクの上の受話器に手を伸ばした。
ボタンを押し、ハンズフリーで対応する。
『吉良主任、百瀬(ももせ)です』
落ち着いた女性の声。
「あ、うん。開けます」
吉良は受話器のドア開錠ボタンを押し、
椅子に座ったまま後ろを向いた。
キャスターの付いた椅子が
緩やかに回転しながらずるずると横移動する。
そのまま慣性に任せながら百瀬を迎えた。
ドアが横にスライドして、廊下の光が部屋に射し込む。
「失礼します」
百瀬は慇懃に頭を下げて、室内に入って来た。
百瀬赤乃(あかの)。
長い黒髪。銀縁の眼鏡。すらりと伸びた脚。
相変わらずとびきりの美人。
が、お近付きにはなりたくないタイプだ。
ただ知的なだけではなく、
独特の翳(かげ)があって、
会話を一分持たせるだけで息が詰まりそうになる、
そんなかび臭い部屋のような女だからだ。
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