終わる世界

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吉良はドアをノックし、ノブに手を掛けた。 「どうぞ」 中からしゃがれた男の声がする。 ノブを回して、ドアを開く。 「すみませ~ん」 いかにも申し訳無さそうにあいさつをして、 軽く頭を下げながら中の様子を窺った。 「はい?」 返事をする警備主任の初老の男性。 ここに勤めてもう十年になるとか。 すっかり白髪頭になっているが、 薄毛とは無縁の豊かな髪をオールバックにしている。 「カードキーを部屋に置き忘れちゃって」 吉良はもっともらしい嘘をついた。 「ああ。マスターキーですね。そこのボックスの中の赤いカードですよ」 警備主任の初老の男性が壁に取り付けられたキーボックスを指差す。 「あ、ども。すみません」 吉良はキーボックスを開け、赤いカードを手に取った。 「使ったらすぐに返却しに戻って下さい」 警備主任の初老の男性は呆れたように言いながら、 黒い表紙の帳面に何かを書き加えている。 恐らくマスターキーの貸し出し記録だ。 「あ、これ、良かったら」 吉良は缶コーヒーを警備主任の初老の男性に差し出し、 視線を警備カメラのモニター画面に向ける。 百瀬だ。彼女が今どこにいるか知りたかった。 それぞれの画面に何人か映っている。 その中に百瀬とおぼしき女性が一人いる。 一階のエントランスを屋外に向かって歩いている。 好機だ。この機を逃す手はない。
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