第1章

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白雪姫(一)                                                                      むかし昔のある冬の夜のこと。 美しい王妃が頬杖をついてぼんやり窓の外を眺めていた。 見渡す限りの雪景色。 全てがただ白かった。 「ああ、子供欲しいなぁ」  大きい雪のひとひらが黒檀の窓枠に降りてきて、溶けもせずひらひらと風に舞って、また仲間の方へ飛んでいった。 「こんな雪のように白い子供が」    しばらくして王妃は女の子を産んだ。  肌は雪のように白く、  唇は血のように赤く、  髪は黒檀のように黒かった。  その子は白雪と名づけられた。    白雪姫は七つになった。 「おかあさま!おーい、おかあさま!」  白雪姫が王妃の寝室に駆け込んできた。 「何をなさっているの」 「まあ早いのね。いつ起きたの」 「とっくよ。もうお顔も洗ってよ。おかあさまは何をなさっているの」 「今からお化粧をするのよ」 「まあステキ。わたしもお化粧をして、おかあさまのように綺麗になりたいわ」 「ほほ、そうね。おまえはわたしに似て綺麗だから十年もしたら世界一の美人になれますよ。 でもね、お化粧が女を綺麗にするのではありませんよ。綺麗になりたいというその気持ちが綺麗にするのですよ」 「わたし綺麗になりたいわ」 「おまえにはまだ化粧は早いけれど少しだけしてあげましょう。おまえは肌が本当に白くて綺麗だから頬紅をつけるときっと映えるわ。いらっしゃい」  王妃は白雪姫の頬にうっすらと紅をさしてやった。 「どう、わたし綺麗になって?」 「ええ、とっても綺麗よ」 「お父様にお見せしてくるわ」  白雪姫は部屋を飛び出して行った。 「お父様はお出かけよー」 「じゃあ下(しも)の者たちに見せてやるわ!おーい、下郎ども集まれーい」  階段を駆け下りる白雪姫の声が城内に響いた。  王妃はゆっくりと時間をかけて化粧をした。  そしていつものように鏡の前に立った。 「鏡よ、壁の鏡よ、世界中で一番美しいのは誰?」 「この部屋で一番美しいのは貴女」 「この部屋で?なんですその嬉しくない一番は。訊かれたことに答えなさい。世界中で一番の美人は誰なの!」 「この部屋で一番美しいのは貴女。でも世界中で一番美しいのは白雪姫」 「え?白っ、え、何って?」  王妃の顔は醜く歪んだ。 「白雪。白雪!どこにいるのです」
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