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「おかあさま見て、上等なお洋服をこんなにロイヤリーに汚してしまったわ」
「なんです裾だけじゃありませんか。おまえは王女ですよ、もっと勇ましくゾウのように泥を浴びなさい。百獣の王ライオンも敵わないゾウのように」
「ゾウ?わかったわ」
白雪姫は泥の中に座り込んで手のひらに泥をすくうと胸元にかけた。
「そんなお上品なゾウがありますか。ゾウは頭からかぶるのです」
「まあほんと?頭からね」
白雪姫は泥を頭からかぶった。その上泥の中に寝転んでゴロゴロした。
「おかあさま見て。わたしはゾウよ、ガオー。ライオンも恐れないサバンナの王様アフリカゾウよ、ガオ?」白雪姫は絵に描いたゾウしか知らなかった。
白雪姫が大きな泥の塊になったのを見届けると、王妃は部屋に駆け上がって叫んだ。
「カガミ!」
「白雪姫」
「ファッ○!」
王妃は檻の中の熊のように部屋の中を行ったり来たりした。王妃にも覚悟はあった。いつまでも世界一であるはずはない。それはきっと自分の血を受けた白雪姫に譲ることになるであろう。しかし王妃はまだ二十三だった。早すぎると思った。
ヒールの音がやんだとき、王妃の顔は青かった。
「わたしはまだ若い。これからいくらでも子供を生むチャンスはある。白雪姫は要らない」
王妃は森の猟師を城に呼んだ。
「おまえは森に詳しいというが本当か」
「はい、私は森で生まれ、森で育ちました。十二で父親に連れられて初めて狩に出てからかれこれ三十年、狐の道でも、栗鼠の巣穴でも、森で私の知らぬことはひとつもないと言って過言ではありません。森は私の庭同然です」
「黙りなさい!森は国王陛下のものです」
「へへぇぇ、恐れ入りました」
「おまえはこれから白雪姫を連れて森に行くのです。探しても決して見つからないほど遠くへ連れて行くのです」
「はぁ、そしてそのあとは……」
「おまえは帰ってくればいいのです」
「お姫(ひい)様は」
「殺すのです。そしてしるしに白雪姫の心臓を持って帰るのです。そうすればそれと引き換えに、おまえには金貨を与えます。わかったらすぐ行きなさい」
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