第1章

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 猟師には何が何やらわからない。しかし食べることと、猟のこと以外考える習慣がないので、別に不審に思わなかった。それに白雪姫を殺すことにも、さほど抵抗はなかった。人種(みぶん)の違う王女に対する同情はわきにくかったのである。猟師は白雪姫を待ちながら、美しいと評判の王女とはどんなものだろうと気楽な事を考えていた。  しばらくして白雪姫が召し使いに連れられてやって来た。白雪姫は森に入るには相応しくない真っ白なドレスで現われた。ただ手には竹で編んだ籠を提げていた。きのこを採りに行くといって連れ出されたのであった。二人は連れ立って森に入っていった。  国王の狩場の森は手が入らず、木は思うままに枝を伸ばし、昼間でも薄暗かった。何も知らない白雪姫は楽しそうに駆け回り、落ち葉を拾って籠に敷き詰めたり、団栗を拾ってその上に並べたりした。 「どんなきのこが採れて?」 「まったけが採れまする」 「まつたけ?そんなおしっこ臭いオリエンタルなきのこ、国王陛下はお召し上がりになるかしら。他には何が採れるの」 「椎茸が採れまする」 「チープね。トリュフはどう」 「もちろん採れまする」 「ほんとうかしら。キャビアはどう」 「ずっと奥の方に行けば沢山生えておりまする」 「おまえはバカね」  森が深くなるに従ってますます陽の光は疎くなり、うねった木の根や、大きな岩は一面苔に覆われ、子供の白雪姫は時々足を滑らさなければならなかった。 「わたしは少し疲れたから、おまえに負ぶわれて行くことにします」  猟師は、子供の足では日が暮れてしまうと心配していたので丁度いいと思った。 「わたしは少しお昼寝をします。ついたら起こしなさい」  猟師は嘘をついて話を合わせるのが面倒だったので喜んだ。  しかし負ぶわれてすぐ白雪姫は猟師の自慢のもみ上げを毟るように引っ張って、下せと言った。白雪姫は下りると、すたすた先を行って振り返って言った、 「臭いわ」  計画ではもっと奥深くまだ行くはずだったが、猟師はそれ以上歩く気がしなくなったので足を止めた。 「もうこのあたりで良う御座います」 「どこにきのこがあるというの」 「きのこなんぞはありませぬ」 「じゃあ何をするの」 「何も致しませぬ。これでわしは帰ります」 「せっかく来たのに?でもまあいいわ、団栗がこんなにたくさん採れたから。じゃあ帰りましょう」
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