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「長谷部家で暮らし出して一年がたち、受験生と呼ばれる立場になっていた俺は、毎日のように進路のことで担任や進路指導の教師に呼ばれていた」
「進路」
呟く私に、凌が頷く。
「もともと通っていた高校もかなりレベルの高い所ではあったが、新しく編入した高校は県下随一の進学校で、俺は成績も常にトップクラスだったから、学校側としては何としても進学させたかったらしい」
「大学には行きたくなかったの?」
凌の言い方だと、進学は希望していなかったことになる。
「行きたくなかった訳じゃないが、行く意味が見いだせなかった。大した目的もなく四年間過ごすよりも、早く一人前になって、こんな自分を受け入れてくれた長谷部の家族と、世話になったバーのマスターに少しでも恩返しがしたかった。だが……」
凌が続ける。
「教師達は学校の名誉の為に、父は俺の将来の為に、進学を望んでいた」
「そんなに成績が良かったの?」
「悪くはなかっただろうな。全国模試では常に三位以内だったし、T大法学部もA判定だったからな」
「凄っ!!いったいどんな頭してるの!?」
「いたって普通の頭だが」
(全国三位が普通の訳ないってーのよ!!それがわかんないのかな!?)
首をひねる私。
「このままこの家に居て大学に通うべきなのか、それとも家を出る方がいいのか。俺がいることが家族の輪を乱しているんじゃないか、父も俺を引き取ったものの、今は後悔してるんじゃないかと悶々と考えていた」
誰にも相談出来なかった凌の苦悩は、いか程のものだったのだろう。
「そんな日々の中、あの日がやってきた」
「あの日?」
「俺の実の両親の命日が……」
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