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「伯父に引き取られた後、荒れていた俺は、一度も亡くなった両親の墓参りをしたことがなかった」
「ただの一度も!?」
「ああ。とても合わせる顔がなかったからな。だが、あの日、珍しく家にいた俺は、まるで何かに突き動かされるように電車に乗って、両親の墓のある寺まで来ていた」
遠い目をする凌。
「小さい頃の記憶を頼りに両親の墓の前に立つと、明らかに誰かが来た後だとわかった。それもまだ帰って間もない。“いったい誰が?”と考えていると、後ろから、『もしかすると神崎 凌さんかな?』と、声をかけられた。見ると、声の主はこの寺の住職のようだった」
「住職さんとは面識があったの?」
「両親の納骨の時に会っていると後で聞いたが、俺は全く覚えていなかった」
「よく凌のことがわかったわね」
いくら“神崎家”のお墓の前にいるからといって、10年近く一度も会っていない人物を、そこの子供だと思うだろうか?ましてや、名前まで覚えているとも考え難い。
「多分、今お前が考えていることと全く同じことをその時の俺も思い、返事をした後、どうしてわかったのか尋ねた。すると住職は『ついて来なさい』と、本堂の奥にある部屋に俺を連れて行き、そこで少し待つように言い、一旦姿を消した後、小さなダンボール箱を手に戻ってきた。そして、その箱を俺の前に差し出した」
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