6. 春の嵐 #2

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side 凌 悠莉の口から語られた話は、人としての常識を大きく逸脱したものだった。彼女の持つ執念深さと我が儘を許される環境が、あのような人外な性格を形成してしまったのだろう。 元々彼女とは面識があった訳ではなく、たまたま大阪支社に来た時に、俺を見て一目惚れしたらしく、例の“仕組まれた見合い”を決行したらしい。 それ以来会うこともなく転勤になり、この話は俺の中で“なかったもの”として解決されようかとしていた。   しかし、東京に来て、1、2ヶ月に一度のペースで携帯に電話がかかってくるようになった。おそらく支社長経由で調べたものだろう。教えた覚えなどないから。 内容は、“東京に用事で来るから食事しましょう”だとか、“大阪に出張の予定はないのか”とか、あとは、“声が聞きたかった”とかいうふざけたものもあった。 間隔的にもそう頻繁でもないし、断ってもしつこく食い下がってくることもなかったから、そのうち諦めるだろうとたかをくくっていたのだが、考えが甘かったらしい。 まさかこんな所まで追いかけてくるとは……。 そして、あと一つ、昨日会って驚いたことがあった。彼女は悠莉のことをかなり詳しく知っていた。いくら婚約しているとはいえ、大阪にいる人間にまでそんな事細かに情報がいく訳がない。 ということは、考えられるのは2つ。知り合いが情報を流しているか、彼女が誰かを雇っているかのどちらかだ。 思い込みも激しいようだし、悠莉との会話の中でも異常さが見られる。 一応元上役の娘だ。あまり波風立てたくはなかったのだが、このまま放置する訳にもいかない。早急に対策を立てねばなるまい。
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