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庭園は、まさにそう呼ぶにふさわしい優美な造りだった。“庭”と言うにはあまりにもおこがましい広さを有し、一本一本綺麗に切りそろえられた木々や、ほぼ中央を流れる小川、それに架かる小さな橋など、“美”が極限まで追求されており、柔らかな灯りでライトアップされた様は、とても幻想的な美しさを醸し出していた。
「きれい」
凌も隣りで“ほぅ”っと息をついている。
ゆっくりと歩を進める私達。
現実からかけ離れた環境のせいかもしれない。私は、半歩前を歩く凌の腕にそっと自分の腕を絡ませた。
普段はあまりない私の行動に、凌も少し驚いているようだ。一瞬こちらを見て、また歩き出した。今度は私の真横を。
お互い何もしゃべらない。けれども、この静かな空間がとても居心地がいいと感じられる。
無理して話題を作らなくても自然体でいられる。これこそ最も大切なことだと思う。
そして、それは相手が凌だからだということも……。
凌にもそう感じてもらえたらと、願わずにはいられない。
「相変わらず見事な庭園だな」
しばらくして、隣りから聞こえてきた、まるで自分自身に語りかけるような言葉。
(そう言えば、さっき、以前一度この旅館に来たことがあると言っていた。その時は誰と来たんだろう?特別な人?)
あの時は聞き流したものの、気になり出したら止まらない。
(どうしよう。聞いてもいいのかな?でも、知り合う前のことまで詮索するなんて、心が狭すぎだよね)
「何だ?」
だが、私がチラチラ見てたのを不審に思ったらしい凌に聞かれる始末。
「あのぅ」
「だから何だ。言いたいことがあったらはっきり言え。黙ってても、どうせそのことが気になって一人で悩んだ挙げ句、終いには訳のわからない結論を出すんだからな」
……そこまで言われたら仕方ない。
「以前は誰と来たの?」
思いきって尋ねてみた。
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