6. 春の嵐 #2

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「……どういうことですか?」 「そのままの意味なんだけど」 だんだん苛立ってくる。 「凌本人から言われるのならともかく、どうしてそんなことを赤の他人のあなたに言われなければならないんですか?」 私は、“赤の他人”にアクセントを置いて言う。 「“赤の他人”の定義にもよると思うんだけど」 「定義?」 「そう。例えば今のあなたの立場は、“婚約者”かもしれないけど、法的には何の拘束力もない関係だわ。言いかえれば、私と大差ないということ」 「確かにそうかもしれませんが、恋愛だろうが結婚だろうが、元々はお互いの気持ちの結びつきだと思います。私も凌も今はまだ婚約しているだけで、確かに口約束だと言われればそれまでです。ですが、その口約束の先に結婚という、法律で他人が家族になる制度があるんじゃないですか?」 言ってるうちに頭に血がのぼって止まらなくなってくる。 「逆に私が聞きたいのは、あなたはなぜ、そんなに凌に執着するんですか?凌の気持ちがあなたに向いていないのはあなた自身が充分わかっておいでだと思うのですが?」   かなりズバッと核心を突いてしまった。 (もしかして、私、クビになるかも) そんな言葉が頭を掠めたが、もう遅い。ここまできたら、言いたいことを残らずぶちまけよう。 「どうして凌なんですか?」 「言いたいことはそれだけ?なら、理由を教えてあげる」 彼女は私から目を反らさずに言った。 「私の方が凌さんを幸せに出来るから。彼は私と結婚する方が、あなたなんかといるより、ずっとずっと幸せな人生を約束されるわ」
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