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「どうもお世話になりました」
「いいえ、またのお越しをお待ちしております」
私がお礼を言うと、若女将はじめ従業員の方々が全員頭を下げる。庶民の私は、こんなVIP待遇とても落ち着けたものではない。
ドギマギしていると、チェックアウトを済ませた凌がやってくる。
2人揃って挨拶をし、車に向かう。
ちょうど車に乗り込もうとした時だった。
「もう帰られるんですか、凌さん?」
今、最も聞きたくない声が響いた。
凌はチラッと私を見てから、ゆっくりと彩さんに向き合う。
「これは彩さん。この度はお父様には大変お世話になりました。私の方からもまた連絡させて頂きますが、よろしければ彩さんからもお伝え下さい」
そう言って、普段見せない笑顔で言う。
(何か黒いなぁ)
凌の笑顔の白々しさに呆れ返る私。
「わかりました。伝えておきますね。それはそうと凌さん、そろそろ私との婚約のこと、真剣に考えて下さいませんか?凌さんにとっても決して悪い話ではないと思うのですが?」
あろうことか、彩さんは私の目の前で凌を口説いてきた。
(ムカつく~!!)
私は、心中でじだんだを踏む。
凌はもう一度私を見て、いつものようにニヤっと笑って、そのままの表情で彩さんに向き直った。そして、
「あんたさぁ、何様な訳?悠莉に“私と結婚すれば地位や権力を与えられる”とか何とか言ったんだろ?どんだけ自分に自信があんだよ?しかも、全身整形に加えて、その性格の悪さ。後藤支社長には世話になったからと思って我慢してたけど、お前と結婚とかマジありえねえよ。わかったら、もう二度とツラ見せるな!!」
と、一気に言い放った。
(凌、人格が崩壊してます!!)
一方、彩さんは、言われたことを理解するのに、少しの間呆然としていたが、かなり失礼なことを言われたと理解したのだろう。真っ赤な顔をして、プルプルと震え出したかと思うと、私達を一睨みして、勢いよくきびすを返した。
「あっ、それから」
歩き出そうとする彩さんを、凌が足止めする。
「今回は見逃すが、金輪際、悠莉に関わるなよ。今後、彼女を傷つけたりした時は、俺は全力であんたを潰すから」
凌の低い声が響いた。
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