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食事が終わって片付けも済むと、あとはお風呂に入って寝るだけ。
普段ならそうなのだが、今日は凌が仕事をしている。
「何か手伝うことある?」
書斎のドアをノックして、すでに仕事を再開している凌に尋ねてみる。
すると、“カチャリ”と扉が開き、凌が顔を出した。
「俺のことは気にしなくていいから、風呂に入って寝ろ」
そう言って頭をポンポンと叩くと、書斎の扉は閉められた。
「……お休みなさい」
締め出されてしまったものは仕方ない。廊下から挨拶してお風呂に向かった。
ーーーーーー
かすかな人の気配に目を覚ます。どうやら凌が寝室に入ってきたらしい。
「……凌?……お疲れ様」
「悪い、起こしたか」
「ううん、それより仕事は終わったの?」
「いや、まだだ。鞄を取りに来ただけで、またすぐに出て行く」
「今、何時なの?」
「夜中の3時だ。まだ朝まで時間がある。ゆっくり寝てろ」
そう言って凌は、2、3度私の頭を優しく撫でて、部屋を出て行こうとする。
「凌」
「どうした?」
「まだはっきりとはわからないけど、今回のこと、あんまりにも突然でごめんなさい。いくら、婚約してると言っても、私がしっかりしてないから、計画性もなくこんなことになってしまって……」
とっさに凌を呼び止めはしたが、彼の顔が見れずに俯いたままそう言うと、
「まあ予定していたより随分早いのは事実だが、いずれは欲しいと思っていたんだ。俺とお前の子供だ、可愛くない訳がない」
「……ありがとう」
「結婚式も新婚旅行もどうなるかわからんが、子供を最優先にして2人で協力して育てていこう」
「そうだね。……でも、私みたいに頼りない人間が母親なんて大役務まるのか不安だな」
正直に気持ちを伝える。
「また、お前は。そんなことを言うなら俺だって思うところはある」
「凌にも?」
「そうだ。もちろんこれは俺にとっても初めてのことだ。それに、俺は両親から受けた愛情というものは、幼い頃のものしかない。もちろん長谷部の両親からも多く貰ったが、一番感情の起伏が激しい思春期にそういったものと縁がなかったから、はたして俺は自分の子供をきちんと良い方向へ導いていけるのかと考える部分もある」
この時初めて、私は凌の心の闇を見た気がした。
そして、自然と腕が彼を抱きしめていた。
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