1104人が本棚に入れています
本棚に追加
厳か(おごそ)なコンサート会場には、満員の観客が座っており、檀上にはオーケストラが挑戦者を待ち構えるように、堂々とした風体で微笑を浮かべていた。
そこに、緊張など全く感じさせない颯爽とした歩みで登場した洵は、軽くお辞儀をして椅子に腰かけた。
洵と指揮者がアイコンタクトを取ると、オーケストラによる演奏が始まった。
ショパンコンクールは全世界にネットでライブ発信される。
まだDVDやCDが発売されていないので、ユーチューブにアップされた少し画像の荒いこの動画を、私は毎日何度も聴いている。
ピアノ協奏曲第1番 ホ短調作品11
厳格なコンサートホールに良く映える、壮大なメロディーだ。
約4分半オーケストラによる演奏が続き、洵が鍵盤に指を乗せるとピアノの独演が始まる。
この瞬間、私はいつも背中がゾクっとする。
洵の気迫に満ちた演奏は、場の空気を一気に彼独自の世界観へと連れ去っていく。
洵が決勝でオーケストラと共演した、このピアノ協奏曲第1番は、専門家たちからは酷評されている。
ピアノが急ぎすぎたり、周りの音と合っていない部分が目立つからだそうだ。
確かに洵はいつも一人で弾いていたから、慣れていないし、荒が目立ってしまったのだろう。
けれど、洵はとても楽しそうに弾いていた。
画面からも、洵が嬉々として弾いている様子が伝わってくる。
最初のコメントを投稿しよう!