第19楽章 ノクターン第20番

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「友達……」  洵は友達という言葉に、不服そうだった。 もしも、どこかで出会ったら、私は洵を友達としては見れないと思う。 洵は何歳になっても、私にとっては最高に魅力的な男で、きっと抱かれたいと思ってしまう。 だからもう、洵とは会わない。 でも、もう二度と会わないなんて、私の口からはとても言えない。  洵はこれから沢山恋をして、時には女を泣かせることもあるかもしれない。 洵の放つ色気は、女をいくらでも引き寄せるだろう。 女を芸の肥やしにすればいい。 そして、抱いた女の数だけ、ピアノに哀愁と色気が加わるのだ。  私も洵のピアノの奥深さの一因となれただろうか。 洵はこんな所で小さく収まるような男じゃない。 世界を股にかけ、飛躍するピアニストになる。 だから共に支え合い、歩いていけない私の存在は、邪魔なだけだ。 「出会えて良かった」  私は手を差し出した。 「俺も……。杏樹を好きになって良かった」  洵と私は固く握手をした。 大きな手に力が入って、痛いくらいだった。 私は泣きながら笑った。 洵も、無理やり顔に力を入れて微笑んでいた。 「なあ、杏樹。考え直す気はない?」  この状況で、再び問う洵に、ぷっと吹き出してしまった。 「考え直す気はないわ。一度決めたことは覆さない性格なの」 「だよな」  私達は握手をしながら笑い合った。 そして、洵はポーランドへと旅立って行った。
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