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「友達……」
洵は友達という言葉に、不服そうだった。
もしも、どこかで出会ったら、私は洵を友達としては見れないと思う。
洵は何歳になっても、私にとっては最高に魅力的な男で、きっと抱かれたいと思ってしまう。
だからもう、洵とは会わない。
でも、もう二度と会わないなんて、私の口からはとても言えない。
洵はこれから沢山恋をして、時には女を泣かせることもあるかもしれない。
洵の放つ色気は、女をいくらでも引き寄せるだろう。
女を芸の肥やしにすればいい。
そして、抱いた女の数だけ、ピアノに哀愁と色気が加わるのだ。
私も洵のピアノの奥深さの一因となれただろうか。
洵はこんな所で小さく収まるような男じゃない。
世界を股にかけ、飛躍するピアニストになる。
だから共に支え合い、歩いていけない私の存在は、邪魔なだけだ。
「出会えて良かった」
私は手を差し出した。
「俺も……。杏樹を好きになって良かった」
洵と私は固く握手をした。
大きな手に力が入って、痛いくらいだった。
私は泣きながら笑った。
洵も、無理やり顔に力を入れて微笑んでいた。
「なあ、杏樹。考え直す気はない?」
この状況で、再び問う洵に、ぷっと吹き出してしまった。
「考え直す気はないわ。一度決めたことは覆さない性格なの」
「だよな」
私達は握手をしながら笑い合った。
そして、洵はポーランドへと旅立って行った。
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