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トーストとコーヒーという簡単な朝食を摂って家を出る。
辺りを警戒しながら、慎重に歩を進めて行った。
見慣れた住宅街を通り過ぎ、何事もないまま駅前通りにたどり着く。
しかしそこで、俺の視界にある物体が飛び込んで来た。
高架下の薄汚れた路地の片隅。
そこに油性マジックで 「拾って下さい」 と書かれたダンボール箱が置かれている。
まるで小学生が書いたような汚い文字を目に留めて、ゆっくりと顔を上げた。
すると、期待に満ちた紫眼と目が合う。
「…………」
そいつは素肌の上にやたらとフリルのついたエプロンを身に着けて、ダンボール箱の中から爛々と輝く目でこちらを見ていた。
今朝のヤツや。
今朝会った変態美少女や。
今朝だけでお腹一杯なのに、まだ足りないのか。
「………………」
よし、何も見なかった事にしよう。
俺はぐぎぎと音がしそうな程にきごちない動きで、無理やり正面に目を戻した。
そして足早に高架下を突き進んで行く。
このまま何事もなければ、いつもの電車に間に合うな。
腕時計を一瞥して、鞄を肩に担ぎ直した。
すると――。
「いやいやいや……!ちょっと待とうよ!」
背後から、焦った声が追いかけて来る。
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