14人が本棚に入れています
本棚に追加
ふり返ってはならない。
足を止めてはならない。
関わったが最後、非日常に巻き込まる。
俺は追いすがる声と足音を振り切るように、そのまま小走りに駅へと向かった。
「いやいや……! 普通無視しないでしょ? そこは普通、疑問に思うものでしょおおおうっ?!」
しかしなおもしつこく追いかけて来る、美少女の声。
ひたひたという裸足の足音に迫られて、俺は無意識に足を早めた。
「ちょ……待っ――!」
通り過ぎる人々が、皆一様にぎょっと目を剥く。
唖然とした表情で背後の美少女を見、それから不審な目つきで俺をふり返った。
止めて!
見ないで!
俺はごくごく平凡で健全な男子高校生です!
間違っても裸エプロンで公道を走り回るような女とは、一切関わりはありません!
登場する人物、団体名はすべて架空のものなんです!
「ちょっと待ちなさいよ! 拾いなさいよ! こんな美少女他にいないわよぉおおお~っ!!」
変態美少女の金切り声が、出勤途中のサラリーマン達で混み合う駅前広場にこだまする。
その声はドップラー効果を生み出して、長く尾を引きながら広がって行った。
それに背を向けてカードをかざし、改札口を通り抜ける。
人の群れに押し流されるようにして、制服やスーツのリクルートカラーで埋め尽くされた電車に飛び乗った。
ほっと安堵のため息を吐いてから、はっと我に返る。
この時間はいつも苦行だった。
特に夏場は体臭がきつくなる時期である。
そこへさらに誰のものとも知れない汗の匂いや香水の匂い。
加齢臭などが加わって、フローラルでデンジャラスな臭気を生み出してしまう。
俺は直ぐさま鼻呼吸から口呼吸に切り替えた。
最初のコメントを投稿しよう!