たぶん第1話

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   ふり返ってはならない。  足を止めてはならない。  関わったが最後、非日常に巻き込まる。  俺は追いすがる声と足音を振り切るように、そのまま小走りに駅へと向かった。 「いやいや……! 普通無視しないでしょ? そこは普通、疑問に思うものでしょおおおうっ?!」  しかしなおもしつこく追いかけて来る、美少女の声。  ひたひたという裸足の足音に迫られて、俺は無意識に足を早めた。 「ちょ……待っ――!」  通り過ぎる人々が、皆一様にぎょっと目を剥く。  唖然とした表情で背後の美少女を見、それから不審な目つきで俺をふり返った。  止めて!  見ないで!  俺はごくごく平凡で健全な男子高校生です!  間違っても裸エプロンで公道を走り回るような女とは、一切関わりはありません!  登場する人物、団体名はすべて架空のものなんです! 「ちょっと待ちなさいよ! 拾いなさいよ! こんな美少女他にいないわよぉおおお~っ!!」  変態美少女の金切り声が、出勤途中のサラリーマン達で混み合う駅前広場にこだまする。  その声はドップラー効果を生み出して、長く尾を引きながら広がって行った。  それに背を向けてカードをかざし、改札口を通り抜ける。  人の群れに押し流されるようにして、制服やスーツのリクルートカラーで埋め尽くされた電車に飛び乗った。  ほっと安堵のため息を吐いてから、はっと我に返る。  この時間はいつも苦行だった。  特に夏場は体臭がきつくなる時期である。  そこへさらに誰のものとも知れない汗の匂いや香水の匂い。  加齢臭などが加わって、フローラルでデンジャラスな臭気を生み出してしまう。  俺は直ぐさま鼻呼吸から口呼吸に切り替えた。
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